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博士学位取り消しと審査の問題で大学の責任は?

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慶應義塾大学の博士学位取り消しの問題が話題になっていますね。こうしたことはそんなに珍しいことではないのですが、相手が著名人であり、さらには不服として申し立てるようなので、大変な話題になっているのでしょう。

  慶大は20日、「博士学位を取消すにあたって」と題した村井純委員長名の文書を公表。渡辺氏が「基本的な注意義務を著しく怠った」ため、学位授与の審査の際、渡辺氏の「学術的な貢献および資質に係る重大な誤認を惹起(じゃっき)した」と説明。「不正の方法により学位の授与を受けた事実」に該当するとした。 

www.asahi.com

いわゆる剽窃(盗用)なのですが、それが発覚しての学位取り消しなのだそうです。博士論文は閲覧できるので、見てみると「これでよく博士論文として通りましたね」というものがあります。私は博士論文は通りませんでしたので、学位は持っていませんが、常に言われていたのは「博士論文は出版できるレベルにしてくれ」ということです。出版すると多くの人の目にふれます。不正はバレるわけですが、今回はその例ですね。見事にバレてしまいました。

こうした剽窃の場合、意図したかどうかに関わらずアウトです。ですので、不服を申し立てたとしても結論が覆ることはないでしょう。本人は慶応大学への愛を表現しておりましたが、そうしたものは一切関係ございません。

学位取り消しで大学側の問題はないのか?

剽窃をした本人が悪いと言えばそれまでなのですが、学位を出したのは大学側ですから、大学側の審査が甘いと言われればそれまでです。博士論文の場合、慎重に審査されるのが常ですが、現在は博士学位を出す傾向にありますし、社会人コースの場合、特に顕著ではないかと思います。

それで慶応大学大学院の「後期博士学位取得のプロセス」を見てみると次の6点があげられています。以下、こちらから引用します。

http://www.gakuji.keio.ac.jp/sfc/gsmg/3946mc0000022tdi-att/3946mc0000022w2f.pdf

  1. 入学後 6 学期(※1)以上在学すること。ただし、早期学位取得要件を満たした者(※2)は除く。
  2. 博士候補要件を充足すること。(本章2.(2)参照)
  3. 学位論文の審査、公聴会および最終試験に合格すること。
  4. 研究科委員会による最終合否判定(投票)に合格すること。
  5. 特別研究を 4 単位以上修得すること。(2007 年度以降入学者のみ)

1に関しては大学院に通っていれば満たせますので、クリアは簡単ですし、不正はできないはずです。2は以下のような条件です。

以下の条件を充足すると、博士候補となります。
a.学科条件を充足する →4.学科条件(p.38) 参照
新規授業科目企画書、外国語、技法科目に合格すること(社会人コースで入学した学生は、新規授業科目企画書・技法科目が免除)。
b.教育体験を実施する →5.教育体験(p.41) 参照
教育体験(本塾または他大学での講師経験でも可)を実施し合格すること(社会人コースで入学した学生は免除)。
c.Thesis Proposal に合格する →7. Thesis Proposal(p.42) 参照
学科条件を充足すると、Thesis Proposal を実施できます。教育体験の修了と Thesis Proposal の合格をもって博士候補となります。

さっと見るとC以外の条件は満たすことができるはずです。Cに関しては大学によって審査の厳しさが違うのではないかと思います。Cの条件には以下のものが含まれます。

 (2)Thesis Proposal 実施学生の申請内容
研究プロポーザルには、研究テーマ/期待される成果/既存の研究結果との関連/関連文献リスト/進捗状況/学会発表、論文提出、掲載等を含めてください。

赤字の部分が重要で、この段階でどこまで学会発表や論文提出、掲載の実績が求められるのかが大学院によって違います。最終的に学位論文を申請する際にレフリー付きの論文掲載が要求されているので、こちらではそれほど求められないのかもしれないです。また基本的には学会発表よりも論文掲載の方が重視されると思うのですが、それも大学院によって違うのかもしれないです。私の場合、学会発表は特に必要ありませんでした。また論文には大学院内の紀要にレフリーを付けて審査することで、レフリー付きの論文審査に通ったことになる場合もあります。

(3)学位審査委員会を設置する 
学位審査委員会は、主査が設置申請を行い、研究科委員会が承認すると設置されます。学位審査委員会が設置されると、学位審査が開始されます。学位審査委員会の期限は 1 年間です。1 年以内に、公聴会および最終試験に合格し、研究科委員会にて最終合否判定(投票)に合格する必要があります。

Research Advisory Group の主査は、博士研究が終了し、論文、作品、その他の添付物の作成が完了して学位審査が開始できると判断した段階で、研究科委員会に学位審査委員会を申請します。この際に、研究科委員会において、【8-1.学位申請の要件】が満たされていることおよび論文の要旨を説明し、学位審査委員会設置の承認を得るものとします。学位審査委員会の設置日(論文受理日)は、研究科委員会承認日とします。なお、学位審査委員会設置日より 1 年以内に研究科委員会で最終合否判定を受け、承認されなければなりません。期限内に最終合否が承認されない場合は、学位審査委員会は解散されます。

博士候補になって学位申請の要件を満たすことで博士学位の審査が開始されます。審査が開始された場合、1年以内に最終合否判定を受けないといけないようです。つまり、この時点ではほとんど出せる状態になければならないということです。学位申請の要件は以下のものです。

基準1

認知された学会論文誌において、単記あるいは筆頭著者として、レフリー付の原著論文が2編以上採録または採録許可であること。ただしその内 1 編は、条件付採録採録許可と同等とみなすが、最終試験までには採録が決定しているものとする。投稿予定あるいは投稿中は不可とする。
また、認知された国際会議等に単記あるいは筆頭者としての発表経験が 1 回以上あること。口頭発表であるか、ポスター発表であるかは問わないものとする。

基準2
認知された出版社から研究成果を著者として 1 編以上出版または出版決定していること。また、認知された国際会議等に単記あるいは筆頭者としての発表経験が 1 回以上あること。口頭発表であるか、ポスター発表であるかは問わないものとする。

基準3
認知された学会等に研究成果作品が 2 編以上採録または採録決定され、1 編以上の作品が入賞または入賞決定していること。また、認知された国際会議等に単記あるいは筆頭者としての発表経験が 1 回以上あること。口頭発表であるか、ポスター発表であるかは問わないものとする。

基準4
基準 1~基準 3 に該当せずとも、極めてユニークな(SFC らしい)研究業績を残し、その成果を認知された場で公開していること。また、認知された国際会議等に単記あるいは筆頭者としての発表経験が 1 回以上あること。口頭発表であるか、ポスター発表であるかは問わないものとする。

私の場合、基準1でしたが、基準2の人も聞いたことはあります。別の大学ではそうした基準を設けているところもあるかもしれません。今回の方の例の場合、出版した著書が2018年4月で学位授与が2017年2月ですので、基準2ではないだろうなと考えられます。

それで結局どれに基づいて判定されているのだろうと研究業績を見てみたのですが、査読論文は2012年なのでそれは査読論文としては古すぎると思います。私は論文は3年以内に査読論文として通っていないとダメと言われたのですが、それが標準なのかどうかは分かりません。

そうすると著書かと思うのですが、2015年に一冊出版しています。これが業績扱いなのでしょうか。ただ本というのは出版社は専門家ではないですから、博士論文の審査基準にしていいのかという疑問がそもそもあります。

 

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researchmap.jp

まさかのウルトラCの基準4というのも考えられるかもしれないです。私の場合、そうしたものはありませんでしたので、見事に審査に落ちました。どの基準で学位申請の要件を満たしたのか気になるところです。

学位申請の後は、公開での公聴会、非公開での最終試験と進みます。この時点では博士論文の提出が済んでいるわけですから、ある程度は学位を与えるかどうかは決まっているのが一般的だと思います。また専門家が審査に入るとは思いますが、それ以外の人は内容の真偽までは分からないので、基本的には主査が論文の真偽について確かめる必要があります。

ただ剽窃されているかどうかを見つけられるかどうかは正直分からないです。先生によってはほとんど読んでないなんて人もいます。私は主査がコロコロ変わったので、読んでなかったです。なんじゃそれと思いますが、一般的によくあることなのかどうかは分かりませんし、今回の慶應の件がそれにあたるかどうかは分かりません。

 

www.gerge0725.work

 性善説では無理だろうがチェックは難しい

最近ではコピペしているかどうかのチェックソフトも出ているので、どんな論文もそのチェックをかけることが必要になってきそうです。ただネット上の情報を検索することはできますが、あらゆる著書をデータ化して検索できるようにするのはとても大変です。そういう意味では研究者の倫理みたいなものに頼るしかないのですが、今回のようなケースが出てくると大学側として学位を授与するのも躊躇してしまうかもしれないです。

昔、特に人文系は死ぬ前に博士号をもらうみたいなこともあったのですが、今は博士号はスタートラインです。その分、今回のような問題が起こってしまうのですが、かといって昔のように博士号は出さないとなると何のための学位なのか、何のための博士課程なのかとなってしまいます。

こうしたチェックを各主査に任せるとなると大学教授は辛いですね。特に指導している学生が多い先生は大変で、そんなに大変なら院生取らないという選択肢だって認めないといけないです。今回のような問題は起こりつつも、研究者としての倫理をしっかりと守ってもらうように教育していくしかないと思います。ただこの方、大学でも教えてるんですよね。どうするんでしょうか。

まとめ

博士論文の剽窃は見つかっていない人もいるはずで、全部調べられたら相当なものが引っかかってくるのではないかと思います。本人に悪意がなくても剽窃剽窃ですので、そうした行為はいけないことだと理解してもらうのと同時に、不正しないと論文通らないぐらいなら博士課程には行かない方がいいですし、研究者の道は諦めた方が良いです。どうしても博士課程に行くと学位をとって研究者と思ってしまいますが、諦めるのも手です。また大学側も「君はダメ」と言ってあげることが必要でしょう。そんな感想をいだいた今回の問題でした。

 

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